先月末のこと。
友人が主催する写真展のオープニングに顔を出したとき、ある服飾デザイナーと知り合った。
彼が製作した作品を友人が着ているのを以前見て、ひそかに彼のデザインセンスの大ファンになっていたので、
「あなたの作ったあれ、最高に格好いいよね!私にも作って欲しいくらい」
と軽くお願いしたところ、じゃ、そうしよう、明日電話してね、とトントン拍子。
本当のプロフェッショナルは、いつもこんなふう。
絶対に変な躊躇をしないし、どんな相手であろうが自分のセンスを欲してくれる人に作品を捧げる用意ができている。
そして翌日、そのMさんから
「昨日会ったMだけど、どんなふうにするか打ち合わせをしようよ」と携帯に電話が入る。
(動きが早いなー・・・)
せっかく作ってもらうんなら、みんなが着ているのと同じじゃなくてオリジナリティーが感じられるものがいい、それには「和」のテイストを盛り込みたいんだけどどう思う?
そう私が言うと、Mさんは大乗り気で
「ああ、いいねぇ。ボクも前からそういうのがやりたかったんだよ。今度打ち合わせのとき何か素材もってきてくれるかな」
こうして、知り合ってちょうど1週間後、私は彼のギャラリーにいた。
Mさんは私が持っていったちょっとした和ものの巾着やろうけつ染め、絞りの素材を見るや目を爛々と輝かせ、
「いいねー、これ最高だね。絞り(Tie Dye)だね」
“絞り”を知っていることにこちらがまずびっくり。
僕は世界中のファブリックをいつも研究してるからね。
そのあとは、もう止まらないといった様子で次々とスケッチ画を描き始めた。
何かにインスパイアされた瞬間に、この人の頭の中は新しいデザインで洪水状態になっていくようだ。
こういうクリエイティブなエネルギーを持った人と話しているときが一番楽しい。
新たなものが世の中に作り出されていく瞬間に立ち会うほど、ワクワクするものはない。
この人はいったいどんな人なんだろう?
今まで一体どこの誰かも知らずにいたけれど、ここでようやく彼自身のことを聞くことができた。
シカゴ生まれ。
小さい頃から服飾が好きで、自分にはデザインの才がありその道に進むことをすでに知っていた。
ロスアンジェルスのデザイン学校に進み、そこで日本人の先生と運命的な出逢いをする。
その先生は「裁縫こそすべての基礎」とMさんに裁縫のイロハを叩き込んでくれた恩師。その恩師のおかげで今の自分がいるんだとMさんは言う。
デザイン学校を卒業後いろんな国を旅し、その国々の伝統的な素材やパターン、デザインを旅先で学んだ。
しばらく暮らしたサンフランシスコでは、ヒッピーカルチャーの真っ只中に身を投じた。
その後、ビバリーヒルズにある友人の工房の片隅を借りて、自分のデザインの洋服を作り始めた。
ある日、ウィンドウに自分が作った洋服を飾っていたところ、ある女性が立ち止まって「これは誰が作ったの?」と問い合わせてきた。
その人は、ダイアナ・ロスだった。
彼女が着たことにより、Mさんのドレスは瞬く間に世間に知れ渡ることになった。
しかし、Mさんは自分の名前を前面に押し出すことを決してしなかった。
作品そのものに価値を感じてくれればそれだけでよかった。
「僕はグッチやベルサーチにはならないんだ。それは誰が作ったドレスなの?と聞かれて「誰ソレ?」って言われるくらいがいいのさ」
その後、チャカ・カーンやマイケル・ジャクソンなど、名だたる大スターがMさんのデザインした服を愛し、仕事は一気に忙しくなった。
工房もフル回転となり、当然人も抱え、お金も十分に入った。
しかし、Mさんはそのことに苦痛を感じ始めた。
あくまで一人のアーティストでありたかったのだ。
自分で裁断し、裁縫し、一人の人のために丹精込めて一つの作品を仕上げる、そのスタイルに回帰するために工場での量産をあるとき一切やめた。
一週間に2着作れるか作れないか。
それでも、顧客一人一人の顔を見て、実際に言葉を交わしながらその人に合ったモノを作り上げていく、その喜びを失いたくなかったのだと。
「(1週間前)あの個展にも行こうかどうか迷っていたんだ。でも行ったおかげで今こうして君と向かい合って新しい製作のアイでデアを語り合っている。改めて外に出かけて行くことの大切さを学んだよ」
Mさんは、こう言ってうれしそうに笑った。
どこの誰とも知らない者同士、インスパイアされながら素敵なものを生み出していく。
その人はひょっとしてグッチやベルサーチやシャネルと肩を並べるくらいの人なのかもしれないけれど、私は調べないしそんなことはどうでもいい。
彼も私を詮索しない。
アーティスティックなアイデアでつながれた二人がわくわくと何かを作り出す。それで十分なのだ。
私はアメリカのこんなところが好きだ。
店に入るとき、彼の作った衣装をとりに来た女性がすれ違いざま私に声をかけてくれた。
「聞いてるわよっ!ジャパニーズテイストの新作を作るんですって?きっと素敵なものになること間違いなしね。待ちきれないわ」
その人は、ミュージシャンのAnne Harrisだった。
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友人が主催する写真展のオープニングに顔を出したとき、ある服飾デザイナーと知り合った。
彼が製作した作品を友人が着ているのを以前見て、ひそかに彼のデザインセンスの大ファンになっていたので、
「あなたの作ったあれ、最高に格好いいよね!私にも作って欲しいくらい」
と軽くお願いしたところ、じゃ、そうしよう、明日電話してね、とトントン拍子。
本当のプロフェッショナルは、いつもこんなふう。
絶対に変な躊躇をしないし、どんな相手であろうが自分のセンスを欲してくれる人に作品を捧げる用意ができている。
そして翌日、そのMさんから
「昨日会ったMだけど、どんなふうにするか打ち合わせをしようよ」と携帯に電話が入る。
(動きが早いなー・・・)
せっかく作ってもらうんなら、みんなが着ているのと同じじゃなくてオリジナリティーが感じられるものがいい、それには「和」のテイストを盛り込みたいんだけどどう思う?
そう私が言うと、Mさんは大乗り気で
「ああ、いいねぇ。ボクも前からそういうのがやりたかったんだよ。今度打ち合わせのとき何か素材もってきてくれるかな」
こうして、知り合ってちょうど1週間後、私は彼のギャラリーにいた。
Mさんは私が持っていったちょっとした和ものの巾着やろうけつ染め、絞りの素材を見るや目を爛々と輝かせ、
「いいねー、これ最高だね。絞り(Tie Dye)だね」
“絞り”を知っていることにこちらがまずびっくり。
僕は世界中のファブリックをいつも研究してるからね。
そのあとは、もう止まらないといった様子で次々とスケッチ画を描き始めた。
何かにインスパイアされた瞬間に、この人の頭の中は新しいデザインで洪水状態になっていくようだ。
こういうクリエイティブなエネルギーを持った人と話しているときが一番楽しい。
新たなものが世の中に作り出されていく瞬間に立ち会うほど、ワクワクするものはない。
この人はいったいどんな人なんだろう?
今まで一体どこの誰かも知らずにいたけれど、ここでようやく彼自身のことを聞くことができた。
シカゴ生まれ。
小さい頃から服飾が好きで、自分にはデザインの才がありその道に進むことをすでに知っていた。
ロスアンジェルスのデザイン学校に進み、そこで日本人の先生と運命的な出逢いをする。
その先生は「裁縫こそすべての基礎」とMさんに裁縫のイロハを叩き込んでくれた恩師。その恩師のおかげで今の自分がいるんだとMさんは言う。
デザイン学校を卒業後いろんな国を旅し、その国々の伝統的な素材やパターン、デザインを旅先で学んだ。
しばらく暮らしたサンフランシスコでは、ヒッピーカルチャーの真っ只中に身を投じた。
その後、ビバリーヒルズにある友人の工房の片隅を借りて、自分のデザインの洋服を作り始めた。
ある日、ウィンドウに自分が作った洋服を飾っていたところ、ある女性が立ち止まって「これは誰が作ったの?」と問い合わせてきた。
その人は、ダイアナ・ロスだった。
彼女が着たことにより、Mさんのドレスは瞬く間に世間に知れ渡ることになった。
しかし、Mさんは自分の名前を前面に押し出すことを決してしなかった。
作品そのものに価値を感じてくれればそれだけでよかった。
「僕はグッチやベルサーチにはならないんだ。それは誰が作ったドレスなの?と聞かれて「誰ソレ?」って言われるくらいがいいのさ」
その後、チャカ・カーンやマイケル・ジャクソンなど、名だたる大スターがMさんのデザインした服を愛し、仕事は一気に忙しくなった。
工房もフル回転となり、当然人も抱え、お金も十分に入った。
しかし、Mさんはそのことに苦痛を感じ始めた。
あくまで一人のアーティストでありたかったのだ。
自分で裁断し、裁縫し、一人の人のために丹精込めて一つの作品を仕上げる、そのスタイルに回帰するために工場での量産をあるとき一切やめた。
一週間に2着作れるか作れないか。
それでも、顧客一人一人の顔を見て、実際に言葉を交わしながらその人に合ったモノを作り上げていく、その喜びを失いたくなかったのだと。
「(1週間前)あの個展にも行こうかどうか迷っていたんだ。でも行ったおかげで今こうして君と向かい合って新しい製作のアイでデアを語り合っている。改めて外に出かけて行くことの大切さを学んだよ」
Mさんは、こう言ってうれしそうに笑った。
どこの誰とも知らない者同士、インスパイアされながら素敵なものを生み出していく。
その人はひょっとしてグッチやベルサーチやシャネルと肩を並べるくらいの人なのかもしれないけれど、私は調べないしそんなことはどうでもいい。
彼も私を詮索しない。
アーティスティックなアイデアでつながれた二人がわくわくと何かを作り出す。それで十分なのだ。
私はアメリカのこんなところが好きだ。
店に入るとき、彼の作った衣装をとりに来た女性がすれ違いざま私に声をかけてくれた。
「聞いてるわよっ!ジャパニーズテイストの新作を作るんですって?きっと素敵なものになること間違いなしね。待ちきれないわ」
その人は、ミュージシャンのAnne Harrisだった。
