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Channel: Life in America ~JAPAN編
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サムライ・ベーシスト

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数週間前のある夜のこと。
シカゴのとあるブルース・ライブハウスに大好きなルリー・ベルを見に行った。
時間が遅かったこともあってほぼ終了状態だったが、ドラマーのウィリー・ヘイズの奥さんのデビィが
「Shoko、今夜ジャパニーズ・ベーシストを見逃したわよ!」と、日本から遊びに来ている女性ベーシスト、Yoshimiさんを紹介してくれた。
彼女はこの日の演奏に飛び入りしたのだそうだ。
マイベースひとつ持って日本からやってきた彼女は、しばらくの間シカゴに滞在してあちこちのブルースハウスめぐりを楽しんでいるという。

「今日は自分のベース持ってきてなくて、(メルヴィン・スミスの)5弦ベース借りてやりました。自分のは4弦だから5弦はよくわからないんですけど、ルリーを見てたらいてもたってもいられなくなって」と、目をキラキラさせて興奮していた。
「あちこちでブルースジャムやってるから参加すれば?」と言うと、
「ジャムじゃだめなんです。(プロの演奏に)シットインしたいんです」ときっぱり。
あどけなささえ残るその顔からは想像できない根性に、思わず息をのんだ。
こういう人、久しぶりに見た気がするなぁ。
キッチンなしの安アパートを借りて、毎夜ブルース三昧の彼女。いままさに長年の夢が実現して生き生きしていた。
スーツケースひとつ持って、英語もろくすっぽしゃべれず、なんのつてもなくアメリカに降り立った怖いもの知らずのあの頃の自分を思い出して、なんだか久しぶりにわくわくした



ほんの短い間だったけどちょっと会話を交わし、車でアパートまで送り届けたことがご縁で、それからいろいろとメールで情報交換をしたり、彼女の飛び入り武勇伝を聞いたりしている。

彼女を見て思うのは、人間“行動力”が全てだなぁということだ。
改めて言うまでもないけれど、「こうしたかった」「ああしたかった」とあとから悔やむ人生ほどつまらないものはない。
こうしたい、と思ったらそれに向かってプランをたてて突き進むのみ。
それができる人とできない人とでは、人生の厚みが違ってくる。

「ブルースがやりたい。好きなミュージシャンと一緒に演奏してみたい」そう思い焦がれた彼女は、必死でお金を貯めて夢のシカゴにやってきた。
移動はもっぱらバスや電車を利用する。
(そういえば、私もベイエリアにいた頃は車がなくてサンフランシスコまで電車とバスでJam Sessionに通っていたっけなー。)
そんな彼女の気持ちをミュージシャンたちもたちまちに悟るのだろう、行く先々で飛び入りをさせてくれるそうだ。
音楽に国境なし。音楽を愛する気持ちにはなおさら国境はないのだ。

でもちょっと、話を聞いてドキドキすることもある。
ライブ情報でチェックしていた“インディアナのギグ”に行こうと予定していたら、実はインディアナはシカゴの南隣の州だった(しかもかなりヤバイ場所)ことを出演予定のミュージシャンから聞かされ、「車もないのにどうやって行くつもりだ?」と呆れられたとか。
結局、ミュージシャンたちと一緒にバンで行って帰ってきたらしい。
行動力もここまでくると、ある種危険だ・・・ 
でも言い換えれば、こんなことができるのも同じ音楽を演る仲間としての信頼関係が出来上がっている証拠。
シカゴのブルースマンたちはみな、心底温かいのである。


一緒にブルースを見に行ける仲間ができたことが何よりうれしい、私なのだった 



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