かくして、意思の疎通がまったくとれないまま波乱含みで始まった番組ロケ。
11月30日、番組クルーがシカゴに到着。カメラマンのT氏、ディレクターのN氏、そしてS氏の3人。
その前の4日間リオで撮影をこなしたあとそのままシカゴに入るという殺人的なスケジュールに、もちろんのこと皆さん疲労困憊の様子だった。
さっそく観光局が手配をしてくれたミニバンに乗り込み、空港からほど近いあるレストランの取材へ直行。もともとそんなに時間をかける予定のカットではなかったのに(2時間もかけたのに結局ここは見事にカットされてしまった)時間をとりすぎ、ホテルにゆっくりチェックインする暇もなく、ホリデートレイン(サンタ列車)の撮影、冒頭のロールで使うスカイラインや街のシーンなどを続けざまに撮影。
何しろ冬のシカゴの日は短く午後4時過ぎには陽が傾いてしまうので、その前にすべて昼間のシーンを撮らなければならない。
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めちゃくちゃ派手で楽しいサンタトレイン(Harlem Station)
毎年11月下旬からクリスマスイブまで、CTAの各ラインで一日に数本運転している。
詳しいスケジュールはCTAのサイトで。
この時期、シカゴ博物館のライオン像もクリスマス仕様におめかし
初日はちょっとガスがかかっていたものの、この時期にしては気温も高く撮影にはまぁまぁのコンディション。
夜はリンカーンパーク動物園のイルミネーションの撮影へ。
想像を絶する混雑と渋滞で、撮影が終了したのは午後9時近く。やっと、夕食にありついたのは10時頃だった・・・。
一日目を終えたところで、寝不足や時差ぼけでクルーはぐったり。私もぐったり。
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まばゆいリンカーンパーク動物園のイルミネーション
そして私は今日からの宿である
Hostelへ。
当初は自宅から毎日電車で1時間かけて通うつもりだったが、早朝から撮影が始まることや不測の事態に備えて撮影の間シカゴに3泊することにしたのだ。
とはいえホテルは高いので、1泊30ドルほどの10人の共同部屋(女性部屋)のある安ホステルにした。もちろん経費は自腹だ。(ダメモトで制作側にかけあって見たが、「馬鹿じゃないの?」という口調で断られた。)
このホテルがまた最悪で、いびきのひどいヤツや朝方帰ってきてがたがた音をたてるやつのせいで、初日はよく眠れなかった・・。
2日目。
朝から例の「シカゴの家族訪問」撮影。
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ご主人、ウィリアムさんのご両親はグァテマラ出身、奥さんのジョアンヌさんはポーランド系という、
アメリカ一の多民族都市シカゴを象徴するような一家だ。
クリーさん一家は、この日の撮影のため屋外のクリスマスデコレーションをすっかり完了してくれていた。それがどんなに大変なことなのか、私は毎年自分の家で経験していいるのでよくわかる。
サンクスギビングホリデー明けの朝早くからの撮影にOKをしてくれただけでなく、家の中をどやどやと遠慮なしに歩き回るスタッフに嫌な顔一つ見せず撮影に協力してくれた一家に心から感謝。
「この撮影は子供たちの成長のいい思い出になるわ」と言いながら、ジョアンヌさんも喜んで参加してくれた。
制作側が期待していた「『ホームアローン』に出てくるような豪邸に住む、絵にかいたような(金髪の)アメリカ人家族」という、いわゆる日本人が勝手にイメージしている“アメリカ人像”からは遠かったかもしれない。が、これこそ実物大のシカゴの家庭なのだ。
「金髪青い目」にこだわるのは、欧米人が「ちょんまげ結って着物着ている日本人」を想像しているのと同じレベルだ。
見た目にこだわるのもいいが、今どきの視聴者のほとんどが海外旅行経験者であることを考えると、いい加減テレビも“視聴者受け”の考えを正したらどうかと思うのは私だけだろうか?
昼からはモデルのタリンさんと待ち合わせたミレニアムパークの屋外スケート場で、出会いのシーン。
日本語の大学教授をしている友人に頼んで彼の教え子を紹介してもらったのだが、実は彼女とは家がご近所同士。撮影に入る数日前に番組の趣旨説明を兼ねて顔合わせをしていて、彼女の人となりを知っていたので安心だった。
彼女はこの年ごろの典型的なアメリカ人の女の子とは対照的に、どこか控えめで穏やかで辛抱強い“和風な”性格。
日本語を勉強しており、3か月の研修旅行にも参加したこともある。スポーツ、音楽、ダンスとなんでもこなす多彩な美女。
彼女をモデルに採用したことで、このシカゴロケのクオリティが上がったことは間違いないと思う。
それに、疲労と押し気味のスケジュールでかなりピリピリしていた撮影現場が、彼女のおかげでほっこりとなごんだことは言うまでもない。
しかし・・・この日あたりから、スタッフの疲労とイライラは最高潮に達し始めていた。
誰のせいでもない事に対するS氏による八つ当たりや言葉の暴力がしばしば私に向けられた。とにかく陰湿。
陰でこそこそ悪口言ってる。ま、終わるまでのがまんがまん。相手にしない。
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タリンさん。身長は180センチ!
3日目
目の覚めるような快晴。しかも気温も10℃以上と、ジャケットを着ていても汗ばむほど。
この天候を利用して朝から街角のシーンや、美術館〜ミレニアムパークの美しい風景を撮影。
ああ、これがこの天気で撮れてよかった!
午後からは、博物館、そしてショップを1軒、シカゴの夕景を撮ってこの日は早目に終了した。
番組では見事にカットになってしまった「シカゴの風物詩」をご紹介。
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科学産業博物館の「世界のクリスマスツリー展」
ウォルト・ディズニーはシカゴ出身。毎年クリスマスツリーとミッキマウスのコラボレーションが話題を呼んでいる。
これぞシカゴのクリスマスシーンなのに、どうしてカットされたのか理解に苦しむ・・。
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ブルーミングデール(ショッピングモール)に毎年現れる、有名なサンタさん。
彼はあちこちのパンフレットにも登場する超有名人。おひげは本物。
4日目(最終日)
この日は、朝からスケジュールがびっしりだ。
朝一番に合宿所(ホステル)をチェックアウト。10人共同部屋のすぐ外には地下鉄の高架があり、電車が通るたびにガタガタと音をたてる。まるで「ブルース・ブラザーズ」の映画に出てくるような部屋だった。
しかも2段ベッドで体が痛い・・。でもこのベッドともついにおサラバだ。
荷物をカウンター横のロッカーに入れ、いつものように迎えに来てくれたドライバーのリックさんと一緒にモデルのタリンさんをユニオン駅に迎えに行く。
最終日の撮影の開始だ。
しかし、しょっぱなから大波乱。1軒目のショップ『AKIRA』に到着するとなんとドアが閉まって誰もいない状態。
電話をしても責任者は捕まらず、そうこうしていると撮影隊がビルの警備員に止められて大変なことに。
やっと連絡が取れた責任者から、「店長がプライベートな理由でショップに来れなくなったの。ごめんなさい〜」とメールが入る。
おい、ごめんなさいって何だよ!?
こっちは何日も前から許可をとってそのために来てるっていうのに。まったく考えられない。
先方の要望で開店前の9時に来たのにとんだ肩透かしを食らってしまい、仕方なく午後に予定していた次のShop『Nakamol』へとスケジュールを変更。
幸いにもこちらはいつでも準備万端という状態だったので、順調に撮影は進んで事なきを得たが・・・どうなることかと朝から冷や汗。
このあと、レストラン2か所をそれこそ分刻みで駆け回り、午後5時50分のホリデートレイン(サンタ列車)に間に合うようにアシュランド駅にすべりこむ。
この駅は、撮影に入る前にカメラマンの友人たちに「ホリデートレインを撮影するならどの駅が一番美しいか」をヒアリングし、氷点下の中を凍えながら一人でロケハンして決めた場所だけに特に思い入れがある。
ここからは息をのむようなシカゴの夜景を遠景で見ることができるので、まるで銀河鉄道のような絵が撮影できる場所なのだ。
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ロケハンの時に撮った写真。結局この景色は何の役にも立たなかったけど(笑)
このホームに、サンタ車輛を含む8両編成の電車が入ってくる予定なのだが、いったいどの部分にサンタが停車するのかはまったくわからなかった。
そのため、責任者の方の立会いのもと入念に入ってくる電車でテストし、ホームでカメラを固定して待ち構えた。
そして、いよいよサンタトレインがホームに滑り込んでくる。
徐々にスピードを落とす電車。そして計算通りに設置したカメラの目の前でサンタ車輛が停車してくれたときは、感動すると同時にほっとした。
全員でキラキラの電車に乗り込み、中を撮影。ルーズベルト駅で下車するまでの20分間、しばし私も夢のような時を過ごすことができた。
このサンタトレイン、地元の人にもあまり知られていないのが残念だ。ビル街を走るシチュエーションが本当のサンタみたいで素晴らしく大人も子供も思わず笑顔になる。
サンタさんはこの寒空の中大変だけれど、夢を見させてくれてありがとう!
メインイベントを撮り終え、ほっとしたあとは最後の仕上げに「Christkindle Market(クリストキンドル・マーケット)」へ。シカゴの冬の名物、ドイツのクリスマス市だ。
ここでオーナメントの屋台やホットワインの売り場、街角でサンタ帽をかぶってサックスを吹いている黒人のおじちゃんなどを撮影して、午後7時ごろ今回のすべての撮影が終了した。
ほっとして、全員疲れがどっとでた瞬間だった。
食事のあとはさっさとお役御免になって早く我が家に帰りたい、ただそれだけを心の中で願っていた。
しかしこの最後の最後にとんでもないいざこざに巻き込まれ、思わずぶち切れそうになった・・・。
(つづく)